大判例

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那覇地方裁判所 平成7年(わ)96号 判決 1996年1月25日

本籍

東京都千代田区一番町一番地

住居

沖縄県宜野湾市野嵩一丁目二七番一八号 玉城アパート二〇二号

職業

会社役員

年齢

五五歳(昭和一五年八月一六日生)

被告人

外間尹誠

主文

被告人を懲役二年及び罰金一億五〇〇〇万円に処する。

未決勾留日数中六〇日を懲役刑に算入する。

罰金を全額納めることができないときは、その未納分について四〇万円を一日に換算した期間労役場に留置する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、沖縄県中頭郡北中城村字仲順五二二番地に居住していたものであるが、平成三年の株式の譲渡に係る所得税を免れようと企て、山川宗孝、幸喜伸徳、真榮城保、喜納兼永、島袋昭良と共謀の上、被告人の同年における株式の譲渡による所得金額は三二億二〇一一万円(別紙1の修正損益計算書記載のとおり)であったにもかかわらず、譲渡に係る株式の一部を山川宗孝らの名義で譲渡したことにして収入の一部を除外するとともに、幸喜伸徳が代表取締役を務める有限会社らに対する架空の仲介手数料を計上するなどの行為により所得を隠した上、平成四年三月一一日、那覇市旭町九番地所在の所轄那覇税務署において、同税務署長に対し、平成三年における株式の譲渡による所得金額が二億七四〇九万〇三八一円で、これに対する所得税額五四八一万八〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、同年分の株式の譲渡に係る正規の所得税額六億四四〇二万二〇〇〇円と右申告税額との差額五億八九二〇万四〇〇〇円(別紙2の脱税額計算書記載のとおり)を免れた。

(証拠)

1  被告人の

(1)  公判供述

(2)  検察官調書六通(検察官請求証拠番号乙2から6まで及び8)

2  幸喜伸徳(四通)、島袋昭良(三通)、喜納兼永(二通)、山川宗孝、真榮城保、西銘順輝(二通)、高嶺宏之(五通)、島袋清正、中山吉一、浦崎康弘、津波古義雄、外間義典、外間シゲ、西銘雄治、西銘春枝、松岡登代、真喜志斉、仲本恭典、白石武治、安田邦登、西平守儀、國場幸治、名嘉清次、阿波連本伸、野原茂男、幸喜伸勇の各検察官調書

3  検察官作成の報告書二通

4  検察事務官作成の捜査報告書

5  査察官報告書三通

(法令の適用)

被告人の行為は平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、所得税法二三八条一項(租税特別措置法三七条の一〇第一項、同法施行令二五条の八、所得税法一二〇条一項三号)に該当するところ、定められた刑の中から懲役刑及び罰金刑を選択し、情状により罰金刑につき所得税法二三八条二項を適用し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金一億五〇〇〇万円に処し、右改正前の刑法二一条を適用して未決勾留日数中六〇日を懲役刑に算入し、罰金を全額納めることができないときは、同法一八条により、その未納分について四〇万円を一日に換算した期間労役場に留置する。

(量刑事情)

一  本件は、被告人が、自己の出資により設立された海邦興産株式会社の全株式八〇〇株を株式会社國場組系列の会社数社に譲渡するにあたり、山川宗孝らと共謀の上、株式の一部を他人名義で譲渡したことにして収入を一部除外するとともに、架空の仲介手数料を計上するなどの方法により所得を隠した上、虚偽の所得税確定申告書を提出するなどして脱税したという事案である。

そこで、被告人の量刑を考えるにあたって特に考慮した事情について説明する。

二  まず、その脱税額が五億八九二〇万円余と通常人の感覚からはかけ離れた巨額なものである上、正規の所得税額に対する脱税額の割合も九一・四八八パーセントと非常に高いという事実に注目しなければならない。このような脱税額及び脱税率に鑑みれば、本件が国民の納税意識や国家の租税収入ひいては納税制度に大きな影響を与えたであろう重大な脱税事犯に当たることは多言を要しないところである。

次に、本件脱税方法が巧妙かつ狡猾なものであり、犯情が悪質であることを指摘しなければならない。すなわち、本件で行われた主要な脱税の方法は、株式の一部を山川宗孝及び自己の経営する有限会社外間ビルの名義で譲渡したことにして収入の一部を除外した上、全額回収済みの沖縄全日空リゾート株式会社に対する支出金を売買違約金の名目で経費として計上したり、真榮城保や幸喜伸徳が代表取締役を務める各有限会社に対する架空の仲介手数料を計上したというものであるが、被告人は、これらを外形的に装うため、買受人として立場の弱い株式の譲渡先に対しては虚偽の売買契約書を作成させ、借金を抱える山川宗孝や真榮城保らに対しては報酬を約束してこれを利用し、架空の領収書を作成させた上で税務当局からの指摘を免れるために一定額の株式譲渡収入や仲介手数料収入があった旨の確定申告をさせ、さらに、有限会社外間ビル名義での譲渡に係る収入除外にあたっては、従前から同社が株式を保有していた旨を装うよう顧問税理士に指示し、その結果、税務署に保管中の決算報告書類を過去六期分に渡って差し替えるという行為をさせているのであり、周到に計画した上で巧妙に脱税を行っている。そして、全面的には信用の置けないと判断した山川宗孝や真榮城保の名義を利用した際には、銀行からの出金を両名に実際に行わせたり、出金に係る現金をこれらの者から受け取る際に幸喜伸徳を介して受け取るなどしているのであり、その狡猾な人格態度は強い非難を免れず、これらの事情からすれば、犯情はまことに悪質というべきである。

さらに、本件脱税の動機についてみても、自己が行っていた不動産業等の事業拡大のために資金を多く得ようとしたというもので、目的のためには手段を選ばない意思の現れと評さざるを得ず、何ら酌量の余地がないことは明らかである。弁護人らは、本件に際して税務の専門家である顧問税理士からの教示があったことに加え、被告人が過去に経験してきた不動産取引の業界等では脱税が日常的に行われている事実があり、これらが影響して、被告人の脱税に対する違法性の意識が薄れることとなったのであって、これを被告人に有利に考慮すべき旨主張する。しかし、このような立論は、国庫に影響を及ぼす脱税という重大な犯罪をより計画的ないし恒常的に行っている者ほど寛容に扱うことを容認することになりかねないものであり、採用することはできない。また、弁護人らは、右の顧問税理士のほか、各脱税工作の名義人となった者らが積極的に本件脱税に協力している点を指摘し、これを被告人に有利に考慮すべきと主張するが、確かに右指摘に係る事情は窺うことができるものの、被告人の方からこれらの者に対して積極的に脱税への協力を働き掛けたこともまた明白であるから、被告人のため斟酌すべき事情として過大に評価することはできないというべきである。

これらの事情からすれば、被告人の責任はまことに重大である。

三  右に述べた事情とは逆に、被告人に対して有利に斟酌すべき事情も存在する。すなわち、被告人は、公判廷においても犯罪事実を認めた上、脱税の重大性を認識して今後は二度と繰り返さない旨を誓約しており、反省の態度を表明していること、現在に至るまでの間に本件脱税に係る本税は全て納付し、延滞税についても逐次納付を続けている上、未納付の残余の部分等については国税当局から換価の猶予を受けるに至っていて、国家の課税権に対する侵害は相当程度まで回復されるとともに、被告人自身の納税意識についても改善がみられること、本件により二億円を超える額の重加算税を課されているほか、右の各納付にあたって関連会社の資産を処分することを余儀なくされるなどの社会的制裁を受けていること、これまで多数の事業を展開してきたほか、福祉事業や小中学校への寄付を行うなどした経歴があり、本件で被告人となった後にも教育等の公的事業に対して多額の寄付を行っているなどある程度の社会的貢献もしていること、実刑判決を受けて服役することが被告人の事業に多大な影響を及ぼすであろうと推察されることなどの事情が認められる。

四  しかしながら、前記二の事情から認められる被告人の責任の重大さに一般予防の観点からの考慮をも加えると、右三の事情などの証拠上窺える被告人に有利な事情を最大限に考慮しても、なお、被告人については実刑を免れることはできないというべきであるから、以上の事情を総合考慮し、罰金刑の額を含めて主文掲記の刑の量定をした。

(出席検察官 石原誠二)

(主任弁護人 大濱和男、弁護人 玉那覇繁吉、同 宮崎政久、同 金城武男)

(求刑 懲役三年六か月及び罰金二億円)

(裁判長裁判官 長嶺信榮 裁判官 大野正男 裁判官 江原健志)

別紙1 修正損益計算書

自 平成3年1月1日

至 平成3年12月31日

外間尹誠

<省略>

別紙2

脱税額計算書

自 平成3年1月1日

至 平成3年12月31日

外間尹誠

<省略>

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